埼京線、十条駅。その東に大衆劇場のある細い路地のレトロな商店街、十条中央商店街がある。大衆劇場なんていうのは、昔はいろんなところにあったんだろうけど、それこそ、映画館だっていたるところにあったんだろうけど、娯楽の変化につれて少なくなって久しい。
でも、そんな文化が十条にはまだ残っているんだ。昭和レトロが生きている。
昭和生まれのわたしは、昭和といっても後半だけど、昭和レトロな街並みを歩くと、不自由なこともあったけど何か温かい、母胎に帰ったような落ち着きを感じる。
その十条中央商店街から、埼京線の線路脇の路地に入ると、やきとり神ちゃんがある。わたしは、疲れた時は、十条中央商店街の温もりの中を歩いて、そして、賑わいを逃れて線路沿いの神ちゃんにくる。
カウンターだけの小さな居酒屋。お客さんはいても2、3人。ゆっくり飲めるんですよ。
焼き鳥焦げてる?関係ない。ご高齢のマスターが一生懸命やられてるんですよ。わたしは、グルメでうんちくを垂れるために居酒屋にきてるのではない。安らぎと温もりを求めて酒を飲みに来てるんですよ。
先客におじさん1人。あっ、わたしもおじさん。だけど、ひとまわり上かな。
わたしは、神ちゃんでは注文の時以外、言葉を発したことがなかったのだけど、珍しく、そのお客さんが話しかけてくれた。
「お客さん、よく来られるんですか?」
「いえ、月に1、2回くらいで、」
話しかけてくれてありがとうございます。わたし、人見知りで、話したくても自分から話せないんです・・人見知りなわたしは、つねづねマスターとも話してみたかったのだけど話せなくて、でも、やっと、この会話から、マスターとも話すことができた。
あっ、十条界隈では、居酒屋の大将はマスターと呼ぶんだ。このあたりの酒場だけのローカル文化。
もう、このお店は28年になるらしい。あれ、28年というと、創業は平成の初期か。お店の感じから勝手に昭和からやってると思ってました。まぁ、ブランドじゃあるまいし、そんなことどうでもいいし、28年なんて大変な年月だもの。この間に開業当時の借金も返し終えたと。
「28年も、お一人で続けられてすごいですね。」
「酒飲みながらやってるからさ・・」
強面だけど、語尾を最後まで言わないマスターのシャイさが伝わってくる。マスターにしかわからない、いろんな気持ちが含まれているんだろうな。
マスターは、50歳で一念発起して神ちゃんを開いたんだそうだ。
壁一面に貼られた写真を見ると、たいそう繁盛していたことがわかる。けど、この長い年月の間に常連さんが、ポツポツと来なくなったそう。今のメニューは、もつ系のメニューが中心だけど、当初は魚貝も扱っていて、メニューが充実していたんだそうだ。マスターも歳をとり、大変なのでメニューも少なくしていったそう。
壁一面の写真とマスターの話。一人のマスターと一つのお店の28年という長い歴史、このお店の生きた個性を感じて、ほっこりした。
だけど・・・ちょうどキリのいい80歳でやめようと思ってると。えっ⁈あと2年ですか⁈
2年後に埼京線が高架化されるんだそうで、建物自体が無くなってしまうらしい。うわぁ、28年の歴史と、壁一面の写真が・・・
「僕は、ここのレバーが好きなんです。今日はなくて残念でした。」
「明日は入るよ。明日おいで。」
マスター、ごめん、明日は休肝日なんだ・・・また来ます。
やきとり神ちゃんの地図、アクセス
東京都北区上十条1−13−2
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