町工場の街、町屋。とかいいつつ、町屋に町工場が立ち並んでた時代のことなんて知らないし、どれだけ町工場の労働者がたくさんいたかなんてことも何も知らない。そうだったのは、戦後から昭和の中頃のことなんだろう。
町屋駅周辺には高層マンションが立ち並び、懐古趣味な私には寂しくも思えるのだけどしょうがない。町は変わっていくのだから。だからこそ、その中に残る古き良き風景が輝いて見えるのだ。（私には）
そう。表通りの再開発が進んでも下町の入り組んだ路地はなかなか再開発が難しいようで、ひとたび表通りから路地に入るとレトロな下町の風情が残っていたりする。そして、そんな路地裏に古風な居酒屋が細々とやっていたりする。
ここ、町屋のいなほ通り商店街も、表通りから入った通りにあるのだが、さらに路地を入っていくと路地に居酒屋が点在している。
昔は、町工場の労働者の人たちが仕事終えて、この辺りで飲みあるあていたのかな、なんて根拠のないノスタルジーに浸りながら歩く。通りの居酒屋からは、お客さんの声がもれてくる。地元の常連さんたちで賑わってるのかな。常連さんで賑わってるお店って入りにくいんだよな・・・
お目当てのもつ焼き小林も、とある記事で、ここは下町の人気の老舗で、地元の常連さんで賑わうお店だと書いていて、カウンターにお客さんがびっしりの写真が載っていた。だが、ここからは、お客さんの声はもれてこない。
もつ焼きと染めた立派な暖簾が構えている。この大きな暖簾に職人の意地、プライドが伝わってきて、一層緊張する・・・
思い切って暖簾をくぐると、なんとお客さん０人。
これはこれで緊張してしまうのだ。で、女将さんは、うつむき加減で、私が入っても一言も発しない。さらに緊張する。とりあえずビールを頼む。
もつ焼き小林で珍しいのは、串煮込みがあることだ。昔は、串煮込みを出すお店は多かったようだが、今は少ないそうだ。
店の雰囲気を肴に酒を飲んでる私には、このお店の店内中に染み込んだ長い歴史の味わいだけでじゅうぶんおいしい酒が飲めるのだが、戦後から作り続けている希少な串煮込みで、よりこの店の味わいが深まる。
そう、もつ焼き小林は、戦後すぐからやってるらしい。戦後の復興の頃から、町工場の人たちの労働後の一杯で賑わったんだろうな。そして町工場が減り、マンションができホワイトカラーの人たちが増えて雰囲気も変わっていったのかな。
それはそうと、ここの女将さん、少し物憂げで、ずっと後ろ向いて座ってる。なんとも珍しいスタイルだな。後ろ向きといえば、９０年代グランジ・ロックの雄、ニルヴァーナのカート・コバーンが後ろ向きで歌ってるのがYouTubeにあったが、お客さんに背を向けて歌うという反社会的行為にカッコやさを感じたものだ。女将さんも同じスタイルだ！
女将さん、パンクだなぁ（笑）。その醸し出す憂いと自然とお客さんに背を向ける背徳感、潔さ、ある意味カッコいいと思った。
マカロニサラダを頼んだら、どこから作り始めたのか、女将さん、ちょっと長いこと背面プレイでマカロニサラダを作ってた。おそらく初めから作っていたのでは？
マヨネーズたっぷりで、おいしい！はい、私の舌はお子ちゃまです。
熱燗は、コップで供される。カウンターの台の上で、コップの下の皿にまで並々に注いでくれる。こぼれないように台からプルプルしながらおろそうとしてると、女将さん、突然笑顔で、「ここで飲んでからおろして下さい」と。
私としたことが、酒場の流儀はまだ半人前なのだ。そして、女将さんとの会話は、これが最初で最後だった。
一人で静かに酒を飲むのがテーマで、わざわざ路地裏の居酒屋に飲みにきているわけだが、最近気づいたが、これはなかなか難しい。わいわいしていると成立しないし、一人でも女将さんが気さくに話しかけてくれると成立しないし、そして、女将さんが何も話してくれないと、それはそれで、その静寂が、一人でゆっくりさせてくれないのだ。
まぁ、何はともあれ、もつ焼き小林、こういうお店は好きだ。
食べたもの
ビール中瓶 ６５０円
酎ハイ ３５０円
熱燗 ３７０円
串煮込み ５本 ４００円
冷奴 ２７０円
マカロニサラダ ３００円
大根サラダ ２７０円
もつ焼 小林の地図、アクセス
東京都荒川区町屋２丁目８−１６光ハイツ
もつ焼 小林 情報交換
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